論文:IT革命後の営業活動    2004年02月15日更新  戻る
(営業活動は会社の組織力が重要であるという個人的な考察)

1.はじめに:
 IT革命によるITバブルも終了して、情報技術(IT)も国民に浸透して、一般的に成りつつあります。
 革命ですから、大きく変わっているはずです。
 企業経営方針の例としては、
 ・売上重視から利益重視へ
 ・囲い込みからオープンへ
 ・事業の選択と集中
 ということが言われています。
 ところで、当社の営業活動は、大きく変わったでしょうか?
 相変わらず、
 ・売上重視
 ・囲い込み
 ・事業の拡大
 で進められているように思えます。
 もちろん、必ずしも変わらなければならないというわけではありません。その行為が今の時代に合っていれば問題ありません。
 問題なのは、「今までこうしてきたのだからこれからも同様に」という発想が問題です。例えば、談合は昔から行われてきた一般的な商談の手段です。しかし、今では明らかに犯罪です。その辺の頭の切り替えができていない人たちが、刑事事件として摘発されているようです。
 一つ一つの行為を全て、もう一度見直し、今の時代に合っているか、客観的に、論理的に検討する必要があります。
 そうしないと、会社として利益を出せないばかりか、社会から問題視され、会社の存続さえ危うくなる場合もあります。

2.私の立場:
 私は、SE歴14年程度、その後、営業に職種転換し8年になります。営業への職種転換において、私は営業の仕事を楽しみにしていました。また、実際に行って見て、いろいろなお客様からいろいろな話を聞けて、営業は楽しいなと感じていました。ところが、1年半程度経過後、上司よりおまえは営業に向かないと言われました。理由を聞いても明確な回答がありません。あいまいな状態のまま現在に至っています。
 私が思うには、SEを長くやってきた人間がいきなり営業をやっているわけですから、他の人が見れば、いろいろと問題があるに決まっています。それは、異動前から分かっていたはずです。
それを敢えて異動させた会社側の考えを、現場の幹部社員が理解していないために生じた問題だと結論しています。
つまり、人事異動は本部の考えで行われていますが、その考えの伝達が明確に行われておらず、現場の判断に任せられているために、価値の無い人事異動に終わっています。
 このような状況は一つの例であり、他にも問題に感じる点が多くあり、当社の組織の在り方に疑問を感じ、個人的に改善(改革)を検討中です。その個人的に検討した改善(改革)案を、一つの考え方として、発表させて頂きます。

3.会社組織とは:
 会社に限らず、複数の人間が関わる組織においては、体制と役割分担が重要です。
 会社を運営するに当たって、本来、会社として行わなければならない仕事(作業)があります。その仕事(作業)を、各社員に割り当てて、作業をこなすことにより、会社組織は成り立ちます。
 体制は、人と人との関係を明確にし、役割分担により、各人の作業を明確にします。自分の役割分担のみならず周りの人の役割分担も理解しておくことにより、お互いに協力して効率よく作業をこなすことができます。
 システム部門でのプロジェクトでは、体制・役割分担が明確にドキュメントとして示されていますが、他の部門(営業・総務)ではどうでしょうか。
 現状では、体制は示されていますが、細かな役割分担は示されていないため、各自で自分の役割を考えて、その自分の仕事(作業)をこなしているようです。
 結果的に、会社として行わなければならない仕事(作業)に漏れが生じたり、社員間での重複が発生し、無駄が生じたりしているように思えます。
 この無駄・漏れが、会社としての発展を大きく阻害していると思われます。
 この無駄・漏れを、大きな問題ではないと言う人もいるかと思いますが、私が考える限り、それは、大企業病としか思えません。
 ※もちろん、部所によっては、体制・役割分担を明確にドキュメントとして示しているところもあります。この辺は、幹部社員の意識の差のようです。

4.営業活動とは:
 会社を営む(経営する)という意味での営業活動を考えると、人事・総務・システムも営業活動の一端を成しています。
 営業マンは、会社経営の中の販売、特に訪問販売を主にしています。販売方法には、訪問販売以外に、店頭販売・通信販売等があります。通信販売は、カタログ販売から、インターネット利用による販売に代わりつつあります。
 インターネット利用による販売では、従来のカタログ販売と異なり、常に最新情報をインターネット上で得ることができます。
 訪問販売は、相手の顔が見える安心感がありますが、反面、会うための時間の浪費、顔が見えるがために間違った判断、舌先三寸でごまかされる、等の問題が発生しやすくなります。
 顧客が商品・サービスを買う場合、商品・サービスの信頼性が重要です。その信頼性を、営業マン個人の対応から判断しているのが、従来の判断基準です。
しかし、本来、商品・サービスの信頼性は、それを提供する会社の信頼性であるはずです。営業マン個人から判断するのは、間違っています。
 今後、インターネットの信頼性が向上して、インターネット上で、会社の信頼性を確認できるようになれば、本来の姿だと思います。
 そうなると、会って話をする必要性が無くなり、訪問販売の価値は、どんどん低下していきます。訪問販売の長所はなくなり、マイナス面だけが現れます。

5.現状の営業活動:
 当社では、販売する商品・サービスは、IT革命に沿っています。また、社内イントラネットも整備されています。
 しかし、企業経営方針としては、相変わらず、
 ・売上重視
 ・囲い込み
 ・事業の拡大
 で進められているように思えます。

5.1 受注・売上重視の営業活動:
 売上やシェアといった量的側面よりも、質的側面である利益が重視されると言われている時代ですが、営業部門の目標数値は、相変わらず受注・売上重視となっています。
 当社だけに限りませんが、V字上昇を目指している会社は多くあります。
 今の低迷した市場を早く回復したい気持ちは分かるのですが、無理をすれば、その反動が来るのではと危惧しています。
 確かに、一昔前までは、受注・売上=利益でした。何でも良いから、仕事を取ってくれば、何とか利益に結び付けることができました。 それは、顧客に余裕(市場に余裕)があったからです。
 しかし、今は、余裕のある顧客はありません。安易に仕事を取ってくると、受注・売上=負債(赤字)になりかねません。

5.2 囲い込み:
 従来から行われてきた一般的な商談行為として、「囲い込み」があります。顧客に対して無償サービス、親密な人間関係等により、優位に商談を受注しようという方法です。
 しかし、競争激化の現在においては、どんなに手間を掛けて「囲い込み」を行っても、最後は、その商品・サービスの本質的な価値(コア)で判断されてしまいます。そうしなければ、顧客自身、生き残ることができないからです。
 結果、「囲い込み」に費やした営業経費は、無駄な経費となります。

5.3 事業の拡大
 営業部門の目標数値が、受注・売上重視のため、営業マンとしては、当社の強み(コア)を活かした商談以外にも手を付けざるを得ない状況に至ります。そして、赤字覚悟で、新しい商談を請けることになります。
 確かに、新しいことにチャレンジすることは大切ですが、その場合には、予算を大幅に超える(赤字になる)ことを明確(商談伺い)にした上で、受注すべきです。しかし、大幅赤字では、社内制度上、認められません。そこで、赤字になることを隠して受注、または適当に数字を操作して受注ということになります。もちろん、意識的に行われるのではなく、目先のお金に目が眩んで、無意識(経理上の誤操作?)の内に行われます。
 その結果、後日、大きな赤字として表面化します。

6.今後の営業活動案:
 当社では、一人一人は頑張っていますが、一人一人が自分本位で頑張っているため、組織全体として見た場合、無駄や漏れが発生しているように思えます。
 それでも一昔前ならば、何とかやっていけたのですが、IT革命により、競争が激しくなり、無駄や漏れの多い企業では、生き残っていけません。
 これからは、トップ主導による組織力が、生き残りの鍵になると考えます。

 今後は、営業部門に限定した活動ではなく、人事・総務・システム等も含めた組織としての活動で、当社の強み(コア)を売っていく必要があります。
 当社の強みは、SEの技術力です。人事は、それを最大限に活かし・継続できるような適材適所の人事異動・組織作り。営業は、当社の強みを売る。総務は、当社の強みが活かされるように社内処理を無駄なく、漏れなく・効率よく運営することが望まれます。

 新しい時代での新しい活動案を考える場合、従来の延長線上で考えていたのでは、効果的な活動案を見落とすことになり、単なる時間の浪費になってしまいます。
 ここでは、従来の発想とは逆の発想で、さらに、従来はタブー視されていた案も取り入れて、会社の組織力を活かした営業活動案を考えて見ました。

6.1 適材適所の人事管理
 会社組織としての活動においては、常に会社全体を見て、適切な人材を適切な部署に配置する「適材適所の人事管理」が基本です。 各部署からの要望に応じて人を異動するのでは、会社全体を見ていないため、各部署の所属長の主義・主張で偏った配置となります。
 本来、人の配置を検討するには、その人が現在持っている能力の検討以上に、その人を今後どのように育てていくかという観点から検討する必要があります。例えば、将来的に幹部社員としての役割を考えるならば、人事・総務・システム・営業の各部門を経験させる必要があります。また、本社・支社の両方での経験も必要であり、頻繁に転勤させる必要があります。逆に、専門分野での活躍を期待するならば、その専門分野に限っての異動となり、転勤はあまり必要ないと思われます。また、このような人材は、会社全体を見る能力に欠けるため、幹部社員には不向きです。
 もちろん、評価として、専門分野のSE・営業よりも幹部社員の方が高い評価を受けるのは、間違った評価です。専門分野のSE・営業も幹部社員も、会社組織の一部として役割を分担しているだけですので、その役割を充分に果たしているか否かで評価すべきです。
さらに言うならば、会社組織の一部として役割を分担しているだけですので、その評価の差をあまり大きくするのは、好ましくありません。低い評価をされた人は、会社組織の中での配置、役割に問題があると考えるべきです。このため評価結果は、低い評価をされた人の配置、役割の再検討に利用すべきです。
 大切なことは、全員が高い評価を受けること、つまり、会社の中で全員が最大限に活かされることです。
当社は人が財産です。財産(人)は、正しく管理される必要があります。管理すべき情報には、正しい情報(事実)、必要な情報を満たす、最新情報、必要時に即時参照できること等が求められます。
 このためには、コンピュータ管理が必要不可欠です。所属長のあいまいな記憶・思い込み・うわさ等に依存した人事管理では正しい判断はできません。

6.2 当社の強みを売る
 「売れるものなら何でも売る」ではなく、「当社が既に持っている技術力を活かせる商品・サービスのみを売る」ことが基本です。
 このためには、営業主体の営業活動ではなく、SEが主体となり、SEから営業に対して、「このような商品・サービスを、このような形で販売しろ!」と指示する必要があります。
 また、商談を探して来るのは、営業でも良いのですが、受注する、しないの最終判断は、SEが行うべきです。

6.3 インターネット利用による販売
 必要な情報を顧客に提示できれば、訪問販売を行う必要はありません。
 インターネット上にバーチャル店舗を持つということは、全国に店舗を持つのと同じ価値があります。このサイトで、商品・サービスの宣伝・販売から代金回収まで行います。
 インターネット上で一番重要なことは、「多くの人が訪れるサイトを持つ」ということです。多くの人が訪れるサイトがあれば、商品の宣伝・販売は容易になります。テレビ番組で、人気の高い番組を持つことの重要性と同じです。

6.4 営業部門の本社1本化案
 営業部門の、会社の中での役割分担を、新規受注とし、既存顧客の対応はシステム部門・サービス部門と考えるならば、営業マンが、各支社・支店に存在する必要は無くなります。
 営業部門を本社一本化し、本社で全国の市場を一括管理し、必要な時に、必要な場所へ、必要な業務知識を持った営業マンを送り込みます。そこで新規開拓し、具体的な商談は、各支社・支店に引き継いで本社に戻ります。新規開拓に際し、具体的な顧客一覧、アプローチ方法等は、事前に、本社で準備した上で出向きます。
 このためには、全国の市場を一括管理できる営業支援システムが必須です。
 営業部門の本社一本化により、商談の少ない各支社・支店で、無駄な営業活動を行う必要がなくなります。また、各支社・支店で、充分な業務知識を持たない営業マンが、営業活動を行う無理を、無くすることができます。

6.5 営業部門の廃止案
 本来は、当社の強み(コア)を売っていくことが重要です。しかし、営業部門が独立した部門として存在すると、営業だけが先走ってしまい、SEは、それに追従することになります。結果として、当社の強み(コア)以外の仕事を請けることになります。
 そこで、営業部門を廃止し、「業種別のシステム部門の中で、あるときはSE、またあるときは営業を行う」という大幅な構造改革(リストラクチャリング)を行います。
 これにより、必要な業種知識を身につけ、当社の強み(コア)を意識した商品・サービスの販売が可能になります。また、営業マンとSEとの間のギャップも存在し得なくなります。
 また、市場の状況によっては、いくら営業活動をしても、受注は難しいという時があります。そういう時には、一時的に営業活動を停止し、既存顧客のシステム開発やアフターフォロー・メンテナンスに力を注ぐこともできます。

7.まとめ
 IT革命により、だれでもが必要な情報を必要な時に得られるようになります。こうなると従来の人間関係に依存した商売は、無駄・漏れが多く、成り立たなくなります。
 この結果、コンピュータ管理による徹底した無駄・漏れの排除により、自社の強み(コア)に絞った営業活動が求められます。
 「face to face から core の時代に!」

 人間味が無くなるという声もありますが、もともと会社は、人間関係を楽しむ場所ではありません。仕事は仕事、私用は私用でケジメをつけるべきです。その辺のケジメが曖昧なことによるトラブルもあるようです。
 IT革命は、単なる技術革新ではなく、一人一人の人生観をも変えるものだと思います。だから「革命」なのではないでしょうか。